トランプ政権による予算削減が気候変動と環境問題に与える影響

  トランプ政権発足後約2か月が経過し、気候変動や環境関連の政策に直接関与する省庁のトップも決まりました。予想通り気候変動の科学に否定的な見解を持つ顔ぶれが揃っているため、気候変動対策や環境政策がオバマ政権時代から大きく後退するのは確実です。

  また、トランプ政権が気候変動と環境関連の予算を大幅に削減するのではないかと懸念されていましたが、3月16日に発表された2018年度(10月1日に開始)の予算案「America First: A Budget Blueprint to Make America Great Again」では、予想通り米環境保護庁(EPA)や国務省、エネルギー省、米航空宇宙局(NASA)や米海洋大気局(NOAA)などの気候変動及び環境関連予算が大幅に削減されており、もしも予算案を米議会が承認すれば、気候変動対策のみならず、研究や観測データの収集、環境汚染と環境正義問題への深刻な影響は必至です。

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トランプ政権の2018年度予算案。Credit: BBC

  省庁ごとに、削減される予算の額と割合、そして影響を受けることが予想される政策やプロジェクトについてまとめてみます。

米環境保護庁(EPA)
  EPAは、1970年に環境と人々の健康を守るために創設された比較的新しい省庁で、環境汚染の規制や環境関連の研究を行い、市民への情報提供、州など自治体への資金提供、企業や団体との連携を通じて環境問題に取り組んでいます。特に、気候変動関連では温室効果ガス排出に対する規制や、公有地での新規石炭採掘を禁止するなど、重要な政策決定を行ってきましたが、トランプ政権によってその多くが覆されようとしています。

  82億ドル(9200億円)だったEPAの予算は57億ドル(6400億円)に削減される予定で、その削減幅はすべての省庁で最大の31%となっています。その影響で、50以上に及ぶ政策やプロジェクトが廃止または縮小され、3,200人が職を失うことになります。影響を受ける主な政策やプロジェクトは以下の通りです。

・ オバマ政権による石炭火力発電所からの温室効果ガス排出を制限する「クリーン・パワー・プラン」への予算割り当てがゼロになり、政策実行不可能に。
・ 国際的な気候変動政策、気候変動関連の研究、提携プログラムなどの予算を1億ドル削減。エネルギー企業の極端な気象現象への適応を援助するプログラムなどを廃止。
・ 企業に対して省エネ商品開発を促し、1年あたり3億トンの二酸化炭素排出を未然に防いでいる「エナジー・スター」プログラムを廃止。
・ EPAの主要研究機関である研究開発オフィスによる気候変動に関する研究予算を半分に削減。
・ スーパーファンドサイト(米政府が指定した廃棄物による汚染が深刻で、浄化が必要な場所)の有害物質除去・浄化に必要な予算を11億ドル(1236億円)から7.62億ドル(856億円)に削減。
・ 先住民の汚染対策費用を30%削減して4,580万ドル(51億円)に。
・ 上水道の鉛汚染対策費用を30%削減(フリント問題には触れていない)。
・ 連邦議会に監視義務があり、変更するには議会を通じた法的手続が必要な温室効果ガスレポートプログラムは生き残る模様(EPA関連では唯一の明るいニュースかも)。

国務省
  国務省は気候変動対策の国際的な交渉窓口となっており、2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)では「パリ協定」の合意達成に中国と共にリーダー的役割を果たしました。トランプ政権は、オバマ政権が行った国際的な約束を反故にしようとしています。国務省の予算は2015年の380億ドル(4兆2千7百億円)から29%減の271億ドル(3兆円)になります。以下の政策等が影響を受けます。

・ 温室効果ガス削減目標の廃止(無視)。EPAで挙げた、パリ協定の目標を達成するための政策(クリーンパワープランやメタンガス規制、自動車の燃費規制、公有地での新規石炭採掘の禁止など)をすべて廃止すると温室効果ガスの削減は難しく、パリ協定の目標達成は事実上不可能になります。
・ アメリカは気候変動の原因となる温室効果ガス最大排出国の義務として「緑の気候基金」を通じて開発途上国に3億ドル(337億円)を拠出する予定でしたが、すでに拠出済みの1億ドル(112億円)を差し引いた2億ドル(224億円)の拠出が見送られることになります。パリ協定に200か国近くが合意するための切り札のひとつでもあった緑の気候基金への拠出を取りやめることで、国際社会からの批判を避けられないばかりか、気候変動への国際的な取り組みの進展に影響を与えることになりそうです。
・ ただし、現時点でアメリカがパリ協定から早期に脱退するかどうかは不透明です。パリ協定から脱退するためには様々な問題をクリアしなければならないため、最終的には何もせずに法的拘束力のないパリ協定を無視するのではないかという見方もあります(トランプ大統領が国際社会からの批判を黙ってやり過ごせればという条件付きですが)。

内務省
  内務省は公有地や河川の管理・保護、天然資源に関する科学情報の提供、先住民に対する義務の履行などを主な役割としています。同省の予算は12%削減されて116億ドル(1兆3千億円)になる予定で、以下の政策やプロジェクトが影響を受けることになります。

・ 公有地における石油・ガス採掘によるエネルギー開発予算を増額したうえで、認可プロセスを簡略化することで石油ガス産業によるエネルギー資源へのアクセスを容易にする。
・ 土地の新規購入、既存の国立公園や保護地、公有地の管理費用を1億2千万ドル(135億円)削減。
・ 国家遺産と国立野生動物保護公園システムへの補助金を廃止。

エネルギー省
  エネルギー省は、エネルギー政策や原子力を含むエネルギー生産と消費が環境に与える影響に関するリサーチを監督しています。国立再生可能エネルギー研究所など、国内にある17か所の研究所はすべてエネルギー省の監督下にあります。予算案では、6%にあたる17億ドル(1900億円)を削減された280億ドル(3兆1千5百億円)が割り当てられています。以下の政策やプロジェクトがその影響を受けることになります。

・ オバマ政権が凍結したネバダ州ユッカマウンテンの高レベル放射性核廃棄物処分施設プロジェクトの再開に1億2千万ドル(135億円)を割り当て。
・ 国立研究所10か所と300以上の大学等における科学研究への予算を9億ドル(1011億円)削減。
・ 先端技術車輌製造などの炭素技術開発を目的としたプロジェクトの廃止。
・ 州政府による先住民と低所得家庭のエネルギー効率化のためのプログラムへの補助金を廃止。

米航空宇宙局(NASA)
  宇宙に関する研究・開発、地球の観測システム構築と科学研究などを行っているNASAは、全体として約1%減の191億ドル(2兆1千5百億円)の予算を割り当てられました。そのうち、地球科学プログラムの予算は1億ドル(112億円)減の19億ドル(2135億円)になる予定で、以下のプログラムに影響が及ぶ可能性があります。

・ 惑星科学についてはオバマ政権よりも力を入れる予定。
・ 2022年に打ち上げが計画されている衛星によりプランクトン、エアロゾル、雲、海洋の生態系を監視し、気候変動との関連を調査・分析するPACEプログラムへの予算割り当てが未定のまま。雲とエアロゾルの気候変動への寄与は気候科学の中で不確かな要素が大きい分野であるため、研究が滞るのは大きな痛手となりそう。
・ 宇宙ステーションから大気熱を観測し、気候モデルの精度を向上させるためのプロジェクト「CLARREO Pathfinder」(2020年に開始予定)がキャンセルになる可能性大。気候変動の科学の理解に遅れが生じることに。
・ 同じく宇宙ステーションから二酸化炭素濃度を複数の手法を用いて計測する「OCO-3」プロジェクトへの予算も未定のまま。
・ 子どもたちに科学・技術・工学・数学(STEM)に関する理解を深めてもらうための教育管理事務所によるプログラムを削除。

米海洋大気局(NOAA)
  NOAAは気象やストーム、気候の観測の監督、海洋や河川、生態系の管理を行い、気候変動による地球環境の変化を予測するための理解を深める役割を担っています。NOAAは商務省の管轄下にあり、EPAと同じく1970年にニクソン政権が設立しました。トランプ政権の2018年度予算案では、NOAAは2億5千万ドル(280億円)以上削減されることになっています。以下がその影響を受けると予想されるプログラムです。

・ 数千人の科学者や技術者、支援活動を行う人たちを雇用し、米沿岸地域の持続可能な経済成長を支え、2015年度には6700万ドル(75億円)の予算に対し8.5倍にあたる5億7千5百万ドル(646億円)の経済効果を生み出した「シー・グラント」を廃止。近年はプログラムに沿岸地域の気候変動への適応も加えられていたため、海面上昇などの影響を受けやすい沿岸地域住民の安全や経済への影響が考えられます。
・ 共同極軌道衛星システム(気象現象の予報を行うコンピュータモデルに観測データを提供)と静止気象衛星に対する予算割り当てが未定のまま。今後激化が見込まれるハリケーンや勢力の強い温帯低気圧などの予報システムが予算削減によって使用不可能になり、自然災害時の住民に対する避難勧告等の遅れが懸念されます。
・ 海洋大気研究所(AOR)の予算が未定のまま。NOAAの他部局と協力し、共同軌道衛星システムと同様に自然災害の予報や発生時の警報の精度を上げるための研究を行っており、予算削減による影響は深刻なものになる可能性があります。近年では、ブイを用いて海洋の温度などを観測するARGOネットワークが気候変動の研究に欠かせない存在になっているため、予算削減やプログラムの廃止は、気候科学にとって大きなダメージとなります。

  代表的なものをざっと流しただけでこの長さです。元々予算割当額がそんなに大きくないため主要メディアにあまりカバーされない環境正義問題関連予算の削減・廃止は、適応するためのリソースが限定されている環境弱者の健康状態や生活状況に敏感に跳ね返ります。オバマ政権時にも不足していた予算の削減と廃止、そして化石燃料採掘と火力発電の促進によって、環境正義問題はさらに深刻化するでしょう。

  予算案は最終的に米議会の承認を受ける必要がありますが、上院と下院はそれぞれの案を持っているため、トランプ政権の予算案がこのまま承認されることはありません。特に、上院では民主党の抵抗を受けずに予算案を承認するために60人の賛成が必要ですが、共和党は過半数を占めるものの52議席しか持っていないため、48人の民主党議員のうち少なくとも8人が賛成に回らなければなりません。民主党のトランプ政権に対する姿勢を見る限り、それは不可能でしょう。予算案は、これから約半年かけて変更が加えられることになります。

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