北極の温暖化と中緯度地域における極端な気象現象の関係

  近年は、アメリカ北東部や日本などの中緯度地域が、冬の嵐をもたらす大寒波に見舞われるようになりました。今回の冬も、米北東部にはすでに二度の寒波が襲来していますし、日本も九州南部で積雪が観測されています。

  『【よくある間違い】寒波や大雪は温暖化していない証拠』で述べた通り、これは寒冷化しているから起こっているのではなく、逆に温暖化が進むことによってこのような気象現象が起こりやすくなっていると考えられています。リンク先の記事内で短く触れましたが、中緯度地域の極端な気象現象は、北極圏の温暖化と密接な関係があるという研究結果が相次いで発表されるようになってきました。

  北極の寒気団が中緯度地域まで南下することによって米北東部や日本が大寒波に見舞われていますが、これは「極渦」と呼ばれる、北極に停滞する強い低気圧が、極地域のジェット気流が弱まって南に伸びてできたいくつかの谷の部分に分裂して収まり、ゆっくりと進むことで冬の嵐を起こし、大雪を降らせたりしています。

  近年は、北極温暖化増幅によって北極圏の気温が他の地域の約2倍の速さで上昇し、赤道地域との気温差(温度勾配)が小さくなるためにジェット気流のスピードが落ち、南北に伸びて大きく蛇行し、その谷に低気圧が、尾根に高気圧が位置する傾向が見られます。そして、大きく湾曲したジェット気流は西から東へとゆっくり進むため、高気圧と低気圧が長時間同じ場所に停滞することになります(Francis & Vavrus 2015)。

  この現象については、下の動画を見ればよくわかると思います。


  動画の赤と黄色の線はジェット気流を表しています。冒頭は北極上空から見たジェット気流で、浅い波線を描くのが通常の状態です。10秒を過ぎたあたりから、南北に大きく蛇行し始め、米北東部がその谷の部分に収っているのがわかります。

Polar Vortex and Jet Stream.jpg
アメリカ上空のジェット気流と極渦の様子を表した天気図
Credit: AccuWeather

  上の図も、先ほどの動画と同じく大きく蛇行したジェット気流を表しています。米中西部から米北東部にできたジェット気流の谷の部分に、極渦が分裂し南下した低気圧(北極の寒気団)がすっぽりと収まっています。この北極の寒気団が、南からの暖かい空気とぶつかることで大雪を降らせます。また、米西部と北西部を見ると、ジェット気流の尾根の部分に高気圧が収っています。このような傾向が続いているため、ここ数年はカリフォルニアからオレゴン、ワシントン、アラスカ州の冬の気温が平年よりも高く乾燥しており、カリフォルニア州の深刻な干ばつの長期化と積雪量が極端に少ない原因のひとつと言われています。

  でも、冬の間はいつもこのようにジェット気流が大きく蛇行しているわけではありません。「北極振動」と呼ばれる北極圏と中緯度地域間の気圧場の南北の振動が、ジェット気流の蛇行と極渦の南下に関係していると言われています。

Arctic Oscillation.jpg
北極振動のマイナス(左)とプラス(右)

  上の図は、北極振動がマイナスの場合(左)とプラスの場合(右)の大まかな違いを説明したものです。プラスの時には、ジェット気流の波は小さくは通常の速度で進んで極渦(低気圧)を極地域に閉じ込めるため、中緯度地域に北極の寒気団が南下してくることはありませんが、マイナスの時期には、逆にジェット気流の速度が落ちて大きく蛇行するため、北極の寒気団が中緯度地域に南下しやすい状態になります。

  日本の場合は、北極振動がプラスの時には暖かく、マイナスの時は北極の寒気団の影響で寒くなり、大雪が降るなどの極端な気象現象が起こりやすくなります。

  実際に、北極振動指数と寒波や大雪などの極端な気象現象が起こった時期を比較してみましょう。

AO Index 2016-02-28.gif
2015年11月1日以降の北極振動指数の変遷

  米北東部と日本の両方が寒波に見舞われ大雪が降った1月16日から19日にかけてと、同じく極渦による寒波が押し寄せたバレンタイン周辺は、どちらも北極振動指数がマイナスだった時期と重なります。でも、長崎などで大雪が降った1月24日の指数はマイナスですが、ニュートラルに近い値を示しています。

  また、日本の気象庁が「2月29日以降、北日本で暴風や大雪の恐れがある」と警戒を呼びかけていますが、28日の北極振動指数はマイナスの値を示しています。

  このように、北極の温暖化(北極温暖化増幅)とジェット気流、極渦、北極振動には密接な関係があり、その影響を受けて、日本やアメリカ、ヨーロッパなどの中緯度地域で極端な気象現象が起こっていると考えられています。まだ研究が浅い分野ですが、もっとも活発に研究が進められている分野のひとつでもあるので、北極の海氷の減少と中緯度地域の極端な気象現象の関係などが少しずつ明らかになってくると期待されています。

【参照】
Francis, J., & Vavrus, S. (2015). Evidence for a wavier jet stream in response to rapid Arctic warming. Environ. Res. Lett., 10(1), 014005. doi:10.1088/1748-9326/10/1/014005

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